黙祷
村上 和

あの日 あの時まで 生きていた人がいる

朝は新聞を読んで
トーストを食べたのかもしれない
ランチは簡単にコンビニで
カロリーの少ない弁当を選んで買ったかもしれない

あの日 あの時 その人は
晴れた空を眺めて
鼻をすすりながら
もうすぐ春だなあと考えていたかもしれない



あの日 あの時の後生まれた人がいる

新米ママは本当に大変なのよと
私に嬉しそうに話をする
ランチは小さな洋食屋さんに入り
こんなトコあったんだとかこの子の未来の話とか

あの日 あの時を 経て
私の生活は今も続いている
今日は携帯料金を支払って
明日は大切な人に久しぶりに会いに行く



今日 この時まで 生きていた人がいる

朝は体温を測り
ナースのあくびに苦笑いしたかもしれない
ランチとは呼べない病院食を
最後のわがままで 少し残したかもしれない

今日 この時まで その人は
家の隅にたまった埃のことや
預金通帳を仕舞った引き出しや
明日からの家族のことを考えていたかもしれない



線をつないで
ほどけない
ように
線をつないで
ほどけない
ように結んで
結んで
ほどけない
ようにつないで
ほどけないように
線を結んで



あの日 あの時まで 生きていた人たちがいる

本当はここにいるのがその人たちで
私の生活は続いてはいないのかもしれない

百年後のある日 ある時 誰かさんが
晴れた空を眺めて
鼻をすすりながら
もうすぐ春だなあと考えるのかもしれない



あの日 あの時 生まれた心を込めて

黙祷


自由詩 黙祷 Copyright 村上 和 2011-06-19 18:17:04
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