BEE
たもつ
触覚の先端ではもう無くしたての繊細な産毛
幾千とおりの声が転回を始めている
その閃光は深く深く脳を焦がし
僕の両手から溢れるハチミツを虹色に染め
やわらかく着地を始める そして舐める
薄透明な羽に浮かぶ葉脈のような羽脈
ジョン と呼んで アン と犬は吠えた
犬の名はジョンではない
何と呼んでも アン と吠える犬
ジョン 淋しいジョン
シカゴの埃くさいマンションの一室で朝を待ちきれずに
大好きな四月の暗闇の中にダイブしたジョン
複眼を構成する眼 そのすべてに僕は映っているか
重たい瞼に耐えかねて世界を遮断してはいないか
たとえば恐怖 たとえば怒声 たとえば懇願
僕は映っているか 僕は見ているか
たとえばダイブ ジョンのダイブ
誰も見届けなかった 淋しいジョンのダイブ
花を見つけられないミツバチが柔らかな空気のなか
透明なコップの縁にとまっている
ジョンと呼んでも返事をしない それはもっと別の音
僕を刺して絶命していったたくさんのミツバチたち
かつて僕はその毒嚢で溺れたかった
気がつけばジョンもミツバチも消えている
コップから僕がこぼれ始める