メロンのしあわせ
草野大悟

だれが落としたんだろう
道のまん中に で〜んと。いきかう車の一台一台を睨み付けてる 生首だ。

欠けた鼻が持ち主を捜索している。
ハジかれた男の頭が、胴体と離れてどこに飛んでいこうが、
今日の俺には、関係ない。
今日は、みんなで食事にいく日だからな。

この時間に、このシチュエーションで、なんで、ろくでもない男なんか ハジク
えっ!こら、家族そろっての食事なのだゾ、三年ぶりの。コラ。マジ ムカツク。
おまえ、ゼッタイ、許さない。

現場には首
カンシキとセンチャクに事実確認
           (事実と真実はみえない、いつだって。)
たっている首は、目をむいて言う
        (遅い!遅い、オソイ、おっそ〜い!!)

そう怒るなよ、
これでも二十分で来たんだぜ
家族との食事をほっぽらかして、子供たちには、また、嘘つきよばわりされてサ。
そんな ウラメシそうな目でおれを見るなよ。
鉛をひきずるような一日が終わったとき
カレンダーのその日に斜め線を引き、
あなたが入浴したときは、カレンダーのその日に水色の○をつける。
ウンチの日は、量におうじて Unchos LL L M S SS
と手帳に記入する。

好きだからね おれは おまえのこと 好きだからね いつも ずっと
そう言うと あなたは うふっ と 笑う
はじめて 好き と 言ったあの日のように うふっ と。

ほんとにすきなら
つかまえて
ほんとにすきなら
ほんとに
つかまえて


闘う前の夜はこわい
こころもからだもブルブルふるえてねむれない
ねむれないまま夜が明ける
朝陽をながめるトイレに行くレタスとチーズを食べるガムをかむ 
流しにツバを吐く

時間だ

リングのいちばん前の席には いつも
両手をあわせた女の子がいた。

こども二人うみましたよ ご希望どおりのかわいい女の子
それでも ホッチャレですか?
出産を終わって死ぬ直前の女ですか?
わたしは、まいにち まいにち 動けないわたしと闘ってるんです
ホッチャレなんて、かみ砕いてみせます。

ほんとに すきなら
つかまえて
うちゅうがうまれるずっとまえから
ふきつづけている わたし を。


朝陽がさすころ 生首は、わが家のテーブルのうえで
ごろん ごろん と、食べごろを主張するふたつのメロンになっていた。
ふたつは 口を揃えて
     わたしの持ち主は やっぱりあなただったのね
と 恨みがましく嬉しそうに言うけれど、
おれ的には、メロンはふたつもいらないし、
ちょっとばかり困った問題ではあったのだが
一個を食えばいいのだと あっけなく解決し、
残ったひとつを このかぼちゃ頭と交換して、どうやら 今のおれがここにいるのだよ。

メロンのしあわせは はるか うちゅうのかなたに およいでいる  の 
かもしれない。

 




自由詩 メロンのしあわせ Copyright 草野大悟 2011-06-14 00:14:56
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