対面のテーブル
電灯虫

左手をテーブルの下に置いたままが癖で
ご飯どきによく注意された。
立膝をついてもいいじゃん。
箸でおかずの上をさ迷ってもいいじゃん。
ぶつぶつ文句を
もごもごしながら
バレないように言った。
当の本人が背筋を伸ばし
スーツもバシッと着ていて
型どったように綺麗にご飯を食べるもんだから
こっちとしては粗探しをするきっかけも無い。
だから余計に自由を気取りたかった。


家庭科実習で女子の指示通りに
クッキーの型を取りながら
星型の生地を増やしていく。
生地だってこんな星に生まれるために
あんなに捏ねられていたんじゃないんだ。
今朝怒られた余韻でそんな反抗心も沸いた。
でも焼け上がる星型クッキーは
オーブン越しに格好よさを膨らませた。
ガラスに跳ね返って写った自分は
ますます拗ねてた。


男同士というのは不思議なもんで
しゃべる間合いをよく計る。
勝手に喋り あっちらこっちらに跳ぶ
母のリズムに慣れていたから余計だ。
大学生に無事になれた頃
家族のムーブメントを作ってた
その母が不在の中
一緒に行くぞと 連れ出された車中では
決まりきった台詞を予め弾くように
外ばかり見ていた。
無言で伸び疲れたドライブの果てで
連れてかれた先は
赤提灯が揺れる 居酒屋だった。


「ノン」と「ノンじゃない」
アルコールビールを二つ頼み
串盛りやら何やらでテーブルが狭くなった。
差し出されたジョッキを鳴らして
黙々 箸が進む。
綺麗な姿勢で食べる対面から
勉学の話が出た。
気のない返事を心がけた。
仕事について話を振った。
返事は普通だった。
大学の感想を求められた。
普通に答えた。
顎の傷について聞いてみた。
プロレスの帰りに顎を割った。
意識が引っ張られる答えを耳にした。


はしゃいで割ったらしい。
格闘が好きで
芸人のプロレス話に爆笑していた
謎の背景はそこにあった。
「ブイブイいわしていた」若い頃から
パチスロの目押しが自慢で
今も裏で小遣いを稼いでいる。
ドヤ顔見せて
へへへ と笑う。
自分が物理的に共有できない
その行過ぎた時間表が埋まっていく。
具体化された父は
型の中身がすごく近くで脈打ち始めた。


店を出て車に向かう。
鍵を渡して前を行く後姿は
自分と対して違わなかった背中だった。
その背中に手を回して 
一緒に肩を組みたくなった。
帰るぞ そうかけられたから
うん と答えた。
父は
おっ とした顔で 
フン と笑った。


自由詩 対面のテーブル Copyright 電灯虫 2011-06-13 23:49:50
notebook Home 戻る