空についての四つの短編
石田 圭太
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とても固い結晶が
流水よりも早く融けるのを見た
蒸発したあの人の姿は
あの人以外の誰も知らない
釣竿を垂らして
静かな時間と彼方に見えるだろう思い出をじっと待った
煙草の煙を燻らせながらじっと待った
見つめた先では
くらげが力尽きて幾らかの時が経ち
間もなく溶けて海になるところだった
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しんしんと雨が降ると
決まって情けない顔の鬼がきて
つぶやいてくる
そこには愛がないねって
正直言って
愛なんて食べたことがないけれど
食べ方だって知らないけれど
雨が降る
見渡す限りの一面に
それでも打たれるものそれぞれに
どこにもかしこにも平等に
降っている事は決してない
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どこを向いても地平線しか見えないところがあって
沈みかけた夕日に
幾重にも幾重にも青いカーテンが被さったら
想像通りの夜になる
何光年も遠くから来た光が
その時そこにある
その時になってやっと使える
言葉に羽をつけてみる
ところがどこにも行き場がないので
最終的には送信boxの
空にする
ボタンを押す
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何かに答えたくて
とても小さな階段を
駆け足で
一段飛ばしした
ひとつ
だけもらった
使いかけの鉛筆を
出来るだけ
小さな
箱に仕舞い
わずかな時間で
確認した
あの小さな子供の持っていた
あれは
あれは何ていう季節だろう