本を買う
はだいろ

本を買う。
本を、買う、という行為は、
とてもとても、難しい。

立ち読みでよいのか。
古本ではだめなのか。
古本なのに、どうしてこんなに高いのか。
ハードカヴァーが、文庫本まで待つのか。
図書館ではだめなのか。
なぜ、
ぼくは、この本が欲しいのか。
買って、
うちに、抱いて、
持って帰りたいと思うのか。

逡巡して、
いったん、コーヒーショップで、
一服してから、
また、本屋へ戻る。

愛しい本、
どうしても、そばにいてほしい本、
そう思ったのに、
買ってみたら、もう見たくはなくなるような本もあり、
じゃあ、
売ってしまえばよいのかといえば、
売ってしまったあとの空白がやっぱり、
部屋には残ってしまう。
そこが、
風俗の女を買うのとは違うところだ。
寄席へ落語を聞きにいくのとも違う。

本を買うということは、
恐ろしいことだ。
もしかしたら、
今日までの自分を刺し殺そうとする行為である。
それを望みながら、
得られない渇きの苦しみもある。

それでも、
ときどき、
本をどうしても、買いたくなる。
空を飛びたくなるきもちになるように。
ときどきでもないか。
毎日のことか。
大きく息を止めて、本を買うのだ。




自由詩 本を買う Copyright はだいろ 2011-06-13 20:15:42
notebook Home 戻る