漂泊のひと
恋月 ぴの
気のせいなら良いのだけど
こころなしか自分勝手なひと増えたような
今朝もわたしの背中を押し退けていった若い女性
謝るでもなく当然な顔してたっけ
あの日からなのかな
誰もが涙して
誰もが優しくなったはずなのにね
あと半歩で助かるとしたら
ひとを押し退けてでも助かろうとする本能に抗えないだろうし
やっぱ自分がいちばん大切だったりする
食堂のテーブルにみつけた小さな傷
もしかして、これもあの日についてしまったのかな
でもそれは、遠い昔についた古傷であることを思い出して
すべてをあの日のせいにしたがる自分自身に気付く
だからって誰でも神さまって訳じゃないしさ
表面張力で吸い寄せられるように
わたしのこころは好きになったひとの二の腕に寄り添って
孕めるものなら孕みたい
それがわたしの生きている証ならば
梅雨の合間の晴れた空
吹き抜ける夏の風に仕舞い忘れの冬物をさらす