家族
かいぶつ
ただいま。
とは言わずに
疲れた。
と言って玄関を開けると
五年ぶりの父は
風呂にでも入れ、と言った。
ただいま。
とは言わずに
なんだお前か。
と言って五年ぶりの兄は
新聞をめくりながら
ひどい雨だと言った。
ただいま。
と言って
レインコートを干しながら
五年ぶりの母は
帰るなら電話ぐらい、と言った。
そして母が夕飯の支度を始め
父と兄と僕の三人は
特に会話らしい会話もせずに
テレビを見て過ごす。
コタツの上にごはんが用意され
いただきます。
と言って
五年ぶりに家族が揃い
食卓を囲む。
父は箸に手を付けず
コタツの中ですでに眠っている。
母はそれを見て
出来たから早く食べな、と何度も言うが
父は起きない。
大根の煮物を食べて
母が呟く
「おいしい。」
昔から会話は少ない家族だった
だから余計に
母の漏らす独り言が
とても愛おしくて
胸が
苦しかった。