夏の水葬館
ayano

水槽をぶん殴る女の子
届きもしない 白百合の揺籃
録音された声が漂う館内
あの子の死んだ声帯

―――わたしの髪は鉛のように重い
――どうかどうか泣かないでいて
―いまから眠る/共犯者でした

花を手に頽れる女の子
人類たちの縁に憧れていた
正真正銘たいせつなひと
特別にしてください

その悲しみにわたしは喜んでます―
 疼く心の中にすべりこめると――
  やりかたが卑怯でも平気―――



暗転



電車のドアに張り付くセーラー服と黒髪、片手に白百合を持っていた。「持って帰ってきちゃった」とこちらを見たから思いきり首を絞めた。悶えながら言った。「みんなと同じ処女がいやだったけど 処女喪失したときは既にみんなと同じ非処女だった 不純だらけで死にたくなった」


殺すものか


首を自由にしてやったら女は涎を垂らした。白百合を一緒に食べた。
「学校でね 机に突っ伏すと胸を揉まれる妄想をして目の前の同じ姿の子の頭上に首吊りの少女を見たりして ああ恋がしたい縁がほしいって思うの」ペラペラとよく喋る女だった。うるさいから電車で犯した。処女だった。女の手を引いて電車を降りた。



明転



女と水族館で葬式を見た
ガラスの向こうで浮かび、死んでも尚あいされる女の子の水葬
声がでない人はガラスを殴り、それを抱きしめる人は笑っていた

死と恋が喪服で隠れるわたしの梅雨
花が枯れまくっても日常に別状はない
自分だけが特別という顔をして オーバーフロー





自由詩 夏の水葬館 Copyright ayano 2011-06-11 22:32:47
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