すてきな建築
甲斐マイク

その

ながい煙突は

をんなのまるい腕のやうで

その

やはらかい踊場は

灰色の砂糖のやうだった



あたしは

去年の今ごろも

この路をひとりでとおったよ

雪というものがふらない冬を

あたしはひとりでわたったよ



あなたは

ちょうど月面にいて

かよわい病気をしていたから

あたしはここにいて

緑色の眉がぱらぱらと落ちてくるのを

つめたいきりぎりすと見てた



-ぼうしのうえにはつきがあり ぼうしのしたにはかなしみがある-

-きゅんとつまったつきがあり きゅんとちぢんだかなしみがある-



あたしはきょう

あなたに手紙を出しましたよ

あたしのかたちになりすました文字で

またあなたに手紙を出しましたよ

厚い毛織のオオバアと

モオショングラフィックの

ささやかな世界の

その

ながい煙突は

あたしのまるい腕のやうで

その

やはらかい踊場は

あなたの膝のやうだった



自由詩 すてきな建築 Copyright 甲斐マイク 2011-06-11 12:28:52
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