私たち
電灯虫

指先を動かせば
共に動く。
指先十本で
繋がる糸。
受け継いでからの
この物理的な絆が私の頼り。


ランドセルを担いで一緒に歩いた。
小石をよけるには 
片足を上げて
歩を進ませなきゃならず
その時の重心移動が難しくて
何度もよろけさせ 
時にはこけさせてしまった。
ついた傷を消すように顔を拭った。
下手な自分の操り様が
当時の一番の悩みだった。


お花を摘むときは二人分。
自分の手ともう一つの手で。
自分のときよりも
繊細な力加減で摘まなきゃならなくて
それが好きだったから
必ず最後に 大切に摘んだ。


宿題してる時は
机の左端に座っていてくれて
泣きそうな時は
両手で覆ってもらった。
寝てるときでも
枕下で寝るまで待ってくれた。
起きて朝ご飯を食べる時は
パンをかじって
その視線を交わして一日が始まった。


二人で夜の屋上で過ごした日。
雲間から月光が滲む中
前に座ったその背中を愛しく思った。
強い風が吹く中で
間を繋ぐ糸がはためいて
取れちゃいそうで
二人の絆を試していた。
取らずに残った糸を抱えて
いっぱい泣いた。
抱えた分だけ 
少しばかり後ずさりして
振り返って見つめてた。
何の混ざり気も無い
あのやり取りを忘れない。


今 継承を済ませて
彼女に繋がり
拙い動きで歩いている
その姿を見ている。
私との間には物理的な絆は
もう無い。
両手の指に残ってる
私だけの跡を握り締め
私は進まなきゃならないんだ。


自由詩 私たち Copyright 電灯虫 2011-06-10 22:22:50
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