カタツムリ
nonya


粘っこい足跡なんて
振り返りたくはないし
遠くへ行くつもりもないから
マイペースの匍匐前進

アンテナは柔らかいけれど
難しい言葉は受信できないし
とてつもなく臆病だから
ツノもヤリもすぐに引っ込めてしまう

見栄えのしない渦巻きの中には
他人にはとても言えない
得体の知れないものが
ぎっしり詰まっている

雨は嫌いじゃないし
ずぶ濡れになるのも悪くない
たまには雨の中で
ツノとヤリとアタマを
思いっ切り伸ばしてみたいけれど

無神経で無慈悲な指先に
掴まるのは御免だから
紫陽花の葉陰でひっそりと
雨の味と匂いを吟味しながら
梅雨空の向こう側を夢見る

感動する出来事なんて
起こるはずもないけれど
決して不幸だと思ったことはない

想像力さえ失くさなければ
郵便受けの裏側でだって
自転車のサドルの上でだって
簡単に幸せを見つけることができる

たとえノロノロを蔑まれようと
たとえヌメヌメを疎まれようと
そんなのでんでんむしできる

僕はカタツムリ
それ以外の何者でもないことを
思い知っているだけで
季節は優しくしてくれる




自由詩 カタツムリ Copyright nonya 2011-06-08 20:31:07
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