鮮魚コーナーにワタリガニが並んでいた
たもつ



粒の中に
粒、ずっと粒
惑星のように
ささやくと
平たくなる
蟹になる
蟹はハサミを見ている
ハサミの向こうに海
海からの風
でもハサミだけ見ている
ハサミに刻まれた
ぼんやりとした名前
生きた証にもならない
国語が得意だから
ノートは漢字だらけ
誉めてくれた先生も
今は知らないどこかの粒の中で
板書をしている、と聞いている
ウミネコを見ている、と聞いている
ウミネコの鳴き声に
蟹は穴へと入る
穴は産道に似ている
産道など蟹は通ったこともないのに
それでも惑星は蟹を包みこむ
街は今日もラブソングが溢れ
優しさに満ちている
そのことが少し恥ずかしい
杖をついたお年寄りが
小さく悪態をついて立ち去る
はずれの方に
夕べ呟いた独り言のような
虹がかかっている
 
 


自由詩 鮮魚コーナーにワタリガニが並んでいた Copyright たもつ 2011-06-07 22:01:56
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