ガラスの城
TAT
俺は今日も理由も目的も展望も持たない野良犬だった
のようだったと書かないのは比喩でないからだ
一生懸命ローソンの駐車場で数十分かけて書いた詩は
肉球でたどたどしく携帯の下書きメールに保存しておいた詩は
さっき確認したらきれいさっぱりガッツリ消えていて
『名前を付けて保存』を押下しなかった俺がきっと悪いんだろうと思う
がしかし運命論フェチの俺としては
何かこうニヤリとしてしまった
というのも
その詩はガラスで組み上げた壊れやすい城について書いたものだったからだ
たった数時間前に自分で書いた詩に違いはないが
『ガラスの城』という名の俺の詩は既に死んでしまった訳だ
その儚さを実証した訳だ
おぉやべぇ何書いたかもう憶えてねぇぜ?
だから既に損なわれ喪われた詩をもう一度以下に書いてみるがそれは
黄泉に手を伸ばし魂を引き戻すような禁忌であろうと思う
って大仰か、、w
がしかし死んだものほど美しいから
俺は気にせずに書くけど
『ガラスの城』
プレパラートのガラスを幾重にも重ねて
触れれば崩れる精緻な黄金率で
僕はガラスのお城をつくる
見張り塔の兵隊は右大臣の目を盗んで
城下町の娘を眺めている
町には市が立っていて
市の幕はお正月のお箸の袋で作りました
娘はちょうど求婚されているところで
宿屋の陰から見守っているのはミニチュアの天使です
この図から娘が祝福を受ける秒読み態勢に入っている事が容易に推測出来ます
細部までディテールにこだわってます
天使の後ろではリンゴを抱えた少年(僕がモデルという訳ではないです)が逃げていて
彼は直に捕まるでしょう何故って天使に背中向かれてるから
そういう所を楽しんでください
城の裏手には古新聞や吸い殻で汚した森が広がっていて
その森には第三王子の亡霊を乗せたコヨーテがうろついている設定です
ちなみに森でいちばん大きなもみの木には城から細いワイヤーが伸びていますが
これには絶対に触らないで下さい
地上二十四階建てのバランスが悪いので結わえてあるのです
実質城の全重量がここにかかっていますからさわったら駄目です
ブドウ畑の間を白馬に乗って
隣国からの大使が来たようです
羽根飾りの帽子をかぶったマッチ棒の大使は
豊穣な畑に舌を巻いています
『うぅむ、この国の王は素晴らしい領土を持っているな、、』と思っている所ですきっと
一方、大きな赤いルビーを十二時に埋め込んだ時計台のバルコニーでは
瀟洒な青年が悲しんでいます
何を隠そう王子です(これも僕がモデルではないです)
王子は何故だか四六時中悲しそうなのです
今僕は太陽と月をスイッチライトで変わりばんこに出せたら良いなぁと思っている所です
月には赤と黒と黄色の折り紙を張る予定です
ガラスのお城は僕の大けっ作ですからくれぐれも僕のいない時にさわったりしないで下さい
ガラスの大きなお城を観賞する時は息を止めて下さい
ガラスの大きなお城はこの国のみんなのじまんなのです