家を建てる場所
西天 龍

「扇状地の地層が出ました!」土木技師が言う
「へっ?」
「いいですか、そのオタマジャクシのような目をおっぴろげて
 向こうの山をよーく見なさい。谷の出口があるでしょう
 あそこから溢れた水と砂がここに広大な扇状地を作った」
「だけど、ここは三方が崖の高台…」
「さらに山をよーく見なさい。後ろの雪のある山
 日本アルプスの今でも続く隆起がこの扇状地も隆起させた
 つまり、扇の片方が持ち上がった」
「…」
「やがて三方が川で削られこの高台ができた。お分かりか?」
「で、ここに家を建てて大丈夫? まだ隆起してるんでしょ?」
「この高台ができたのはおそらく今から数万年前
 アルプスの隆起は数十万年前から続き、止まるときは日本列島が海に沈む時
 あなたが建てるちっぽけな家は五十年ももてばいいんでしょう
 大丈夫ちっぽけな家には十分すぎる支持地盤がこの地にはある 
 私が保証する。」
「おお!」思わすボーリングのやぐらを拝む

この猫の額のような高台が再び扇状地の地層に沈み込むとき
化石になりたいな
隆起と沈降が繰り返された遥か未来の土木技師に
「ちっぽけな家が出ました」と言わせたい
家を建てる場所
地球の鼓動に寄り添って命を綴る場所


自由詩 家を建てる場所 Copyright 西天 龍 2011-06-05 22:25:18
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