日本画家の先生へ
砂木

良かった とたくさん書いてある手紙
挫折した私にあてた 亡き先生の言葉

都会の勤めを一年で辞め地元に再就職した
仕事を覚えたての私に

あなたの事だから きっと会社の利益になる
早く決断して良かった
帰ってきて良かった
とにかく良かった 
私は 絵 あなたは 詩
お互いに いい趣味を持って良かったね
良かった 良かった 良かった と

二十歳そこそこの私と四十歳くらいの先生
いい気になって都会に行って のこのこ帰ってきて
考えが甘いとか しっかりしろとか 真面目にやれとか
説教されても 一言も返せない立場の私に
いくらでも言える立場だったのに
良いとばかり言えない事も 百も承知で
良かった 本当に良かったと書いていて

友達がリストラされて 私もどうなるかわからない
今日 仕事があっても 明日 どうなるかわからない
そんな日々 沈む心 荒れてくる気分の時に 思い返し

もう今は 病気で亡くなった先生の年を追い越し
あの病室でスケッチブックを見せて貰ったのも
二十年以上も前になり
私が友人と初めて作った小さな詩集を贈って
喜んでもらったのも 幻のように遠くなり
でも先生の言葉が私の心に描く私は
本当に良かった私で

先生 ありがとうございます
何度も 書いては消した詩
書いていると 泣けてしょうがない
でも 書きたいから書いておく

言葉で書いてくださって ありがとう
先生 





自由詩 日本画家の先生へ Copyright 砂木 2011-06-03 19:25:29
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