おやさいについての五品
山中 烏流





*こんさい

想像に難くない範囲で
丸々としていく姿に見とれる
絡まったり
時に、何かに潤されたりしながら

どこかの食卓に並ぶ
あんまり嫌われることもないから
それに甘えたりして
気付けば部屋の隅に
根を張ったりする

たまに芽が出たりすると
競い合うようにして抉られるから
正直な話
早く食べて欲しかったり
するのだという


*きゃべつ

緑色のショートカットで原宿辺りを歩いてる子って
キャベツって呼びたくなるよね
レタスでもいい気がするんだけど
キャベツって言ってみたい気持ちが勝つんだよね
わざと色を抜いた白髪とかには
そのまんまネギ頭とか言いたくなるし
見た目って大事だよね

どうでもいいけど、
キャベツの千切りってたまに食べると美味しいよね
付け合せじゃなくて
そのまま生で食べるんだよ
レタスか、
レタスは駄目だなあ
ネギは嫌いだからパスだし
やっぱりキャベツだよね


*とまと

山本山
新聞紙
トマト
このぐらいしか回文は作れません
声にすると、山本山には違和感しかないけれど
小学生の頃からの洗脳なので
うっかり解けることもありません
赤いと言ったら、のマジカルバナナで
大体最初の方に出る名前だとか
フルーツトマトの匂いが無理だとか
包丁で薄切りにしようとすると難しいとか
それぐらいしか
トマトのことは知らない私です
トマト、という言葉はたくさん喋ってきたけれど
トマトがトマトでトマトだからトマトです


*すいか

縁側の置物として名を馳せるスイカの
名産地に住みたいか、と聞かれれば別段そうでもなく
塩はかけない派の私ですから
食材そのものの味を楽しんでいる
と、いうわけでもなくて
近い国で爆発したスイカさん可哀想
そんなドリーム思考も用意していません
砂浜の風物詩として名高いスイカ割りの
思いつく限りでの惨状に沸いたことは
記憶の中に一度くらいはあるけれど
どこのシーンにも
小さな虫がたかっているから
スイカの種は
暖かくなるにつれ、ゆっくりと孵化するのです


*いんげん

好きな理由を挙げるなら
独特の青臭さと、食感

答えを聞いた君は少し変な顔で
それ以外に特徴無いよね、と言う


緑色なところとか
赤ちゃんの爪程の大きさの豆とかが
好きな人もいるかもよ、と返せば
でもそんな奇特な人いるのかな、とまた


一人一人尋ねて回れば
もしかしたら見つかるかもしれないけど

私達にそんな気力はないから
毎日の食卓に
今日もいんげんは、こっそりと潜んでいる








自由詩 おやさいについての五品 Copyright 山中 烏流 2011-06-03 04:11:39
notebook Home