一緒に食べよ。
電灯虫
プラスチックに入れられた 三個のタイヤキ。
自転車で しゃかしゃか走るのに一所懸命で
折り重なって 上蓋を圧迫ぎみの危険に気を配れない。
赤くて細い 一本の輪ゴムに運命を託す。
タイヤキは
泳げない魚型のお菓子である。
熱せられた片方の型に生地を入れ
その上に餡子を入れる。
さらにその上に 生地を加えて
もう片方の型と合わせて閉じる。
閉じたまま 逆方向にひっくり返す。
頃合見て 型を開けば
ほっこり焼けて
この世に その泳げない姿をさらす。
商店街の一角で
帰宅時間の針の組み合わせ
増えて行き交う人の賑わいを背景に
その生成過程を見ていた。
泳げない魚が できたてほやほやで パックに入る。
目が合った。
タイヤキは思う。
憐憫の情なんて。
詩的さ醸す そんな感性は置いといて
お菓子として
仲良く 私の餡子を頬張ってくださいな。
甘さ控え目。
記憶は きっと残りますから。
待ち合わせの時間に間に合う。
こちらに気付く。
息を整えながら 前カゴに手を突っ込む。
ビニールごと 突き出し
一緒に食う発言をする。
それを 聞きながら
笑顔途中の その顔が不器用すぎて
笑っちゃった。
中を見れば
ほんのり 温かさを残している
パック越しのタイヤキたち。
目が合う。
分かってやってくださいやし。
笑顔浮かべて 言うから
言われなくても。
と お姉さん顔で言ってやった。
三個のうち 一個に手を差し伸べ
一個 あげた。
一緒にベンチに座って タイヤキを頬張る。
口の中で広がる 甘さ控え目。
無言でも いい日で終われそう。
そんな 一時。