クシャクシャの一万円
月山一天
「もう一年早ければ、受験できたんですがねぇ。」
そういった試験管はかなり嬉しそうに笑った。
新卒の22歳より、
数年分賢くなったわたしはいらないのだそうだ。
バス停であなたを待つ間、
目の前の蟻の行列を片っ端から散らかして、
何百匹もの犠牲が出た所で、
やっとあなたはキーキー自転車を漕いで来た。
冗談じゃないわよ。なんでこの歳にもなって立ち乗りしないといけないのよ。
そう言ったら、私の隣に自転車停めて
派手にやったなーと頭をカリカリ、
隣に座る。
「しわくちゃのおばちゃんは取らないんだって。」
「若い子の方が覚えが早いんだって。」
人生のドアが崩れ落ちた気がする。
そうカッコ付けて言うと、
そんな哲学的な事を言われても良くわかんないよ。
そう言ってあなたは
立ち上がって財布から一万円を取り出す。
くれるのかと思ったら、いきなりそれを手でグチャグチャ鼻をかんで、足でゲシゲシして、
ボロボロのみすぼらしいそれを、私に掲げると、
「一万円は、どんな格好になっても一万円だ。」
そう言った。
帰り道、
暖かいあなたの肩に捕まりながら、
クシャクシャな私は
クシャクシャのまま
生きて行こうと思った。