寝る前に
渡邉建志

光の壁の向こうに手を伸ばすと、音の河が流れている。手をつけると波紋が広がりあるいは渦が巻く。私が床に寝そべってこれを書いているときにそのことばは私と光の壁の向こうで音になっていて、その壁のさきで、園の波をその園丁がどう読むか知らない。

交わした数少ない言葉の中でその人はわたしの幸せはわたしの周りの人を幸せにすることだと言った。私はその周りの人になれなかったけれど、その人の幸せの形を素敵だと思った。私はどうしても周りがみえないままに世界や宇宙と自分のことばかり考え、私はどういう運命の子なのかを考えて苦しむ。

漂流し続ける「やりたいこと」とを考えながら、頭を壁にぶつけて死にたい、と思う。悟りを開いた聖人が悟りを忘れることができないように、妄想を抱いた私は妄想を捨て去ることはできないだろう。自分とともに葬るしか方法を思いつかない。妄想はあまりにも漠然と膨大と幼稚でここに書くことさえできない。「何をやりたいの」と聞かれるとき私はいつも赤面したし、いまでもし続けている。非常に乱暴に言うと私は聖人になりたかったのだ。


散文(批評随筆小説等) 寝る前に Copyright 渡邉建志 2011-05-29 03:54:49
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