雨の歌がきこえる
橘あまね

雨の歌がきこえる
空から放たれ
大地に落ちて
響く、歌たち

この星の、この世界の
この国の、この街で
ぼくたちがいま
確かに踏みしめる土のうえ、
なきがらを見送り
あたらしく生まれるものを祝う歌だ

土くれのひとかけらずつに
ふくまれている
ほほえみとかなしみの種たちが
いっせいに、芽吹く

空の神と大地の神が
雨の糸をつたって
めぐりあうとき
ひとつになるとき

いや、もとからひとつだった
ぼくたちの目には
分かれたように映るけれど
引き離されたように映るけれど

空の神と大地の神は
いつもともにあって
父の呼吸と
母の鼓動の
ひとつながりとして、
ぼくたちを生んだ
青と赤から
むらさきが織られるように
ぼくたちをかたちづくった


怒り、悲しみ、よろこぶすべての歌
ささやき、くちずさみ
みたされ、あふれて
こぼれだす
あらゆる色

耳をすまして
胸の高鳴りを聴こう
新しい季節がやってくる
この目が、この耳が
この鼻が、この舌が
この手足、そしてこの心が
ありのままかなでる音を、聴こう

魂は空から
肉体は土から
分かたれたようで
はじめからひとつながりだったもの
父の呼吸と母の鼓動
つながれ
すべての生命たち
つながれ
この雨の中つながれ
すべてまとめて
つつみこんで、


(歌になれ)


耳をすませ、
水の打ち鳴らすリズムに乗れ
ここで確かに踏みしめる土
この街、この国
この世界、この星の上
確かに融けあって
抱き合って
包みあって
ほほえんで、
泣いてはまたほほえむ
ぼくたちがいとなむ
すべての感情とすべての感覚が
みあげる空と踏みしめる大地から
生み出されたことを知れ


雨の歌がきこえる
すべて和音をなすものたちと
ひとつながりの、
六月をつづろう


自由詩 雨の歌がきこえる Copyright 橘あまね 2011-05-28 23:18:10
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