蛇の消えた家
和田カマリ

大きな古い蛇
屋根裏から
台所に落ちた

そのまま外に
スルリと這い出
道端の用水路へ

右へ左へ
身を捩りながら
流れて行った

蛇の消えた家は
長く持たない
赤い張り紙

社長も家族も
社員さんも
みんないなくなった

腕を組み
鬼の形相で
立ちすくむ人々

毒の息を吐き
進入を計るも
結界は破れず

一人去り
二人去り
静かになった

ただ一人
手を合わせて
拝む者がいた

毎月毎月
米を貰った
恩義があると

その者の姿も
やがて見えなくなり
誰も来なくなった

それから何年か
呪文の張り紙
ボロボロになった

重機がやって来て
家を破壊した
立ち込める粉塵

土を隠すもの
何も無くなり
更地になった

トラックから
大工達が降り始め
また家を建てる

次第に出来ていく
自分の家を眺め
オーナーはご満悦

竣工の日
大工の棟梁は
式を中座し

彼だけが知る
秘密の換気口をぬけ
屋根裏に向かった

ポケットから
小さな球体を取出し
こっそりと置いた

新しい蛇が生まれる


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取引先の社長が飛んでしまいました。
最近、僕は社長の家から出て行く、
大きな蛇を見たばかりでした。
ヌシ?
だったのでしょうか。


自由詩 蛇の消えた家 Copyright 和田カマリ 2011-05-28 18:41:58
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