電脳港
月音
最近じゃ 市場も不景気なもので いくら水揚げが日本一だなんていってもね
今は こんな体
さりとて さいわいにも 右の手足は 丈夫なもんだ
午前3時には 目がさめちまうんだな 習慣ってやつでね
息子には こんな仕事
今はレンタカーの会社に勤めているんだけれど 営業じゃなくてね
暑かろうが 寒かろうが エアコンの前で 10台のモニターとにらめっこ
寝静まった 夜明け トラックは 港町をでる
大手の量販店におされ 得意先のスーパーは 軒並み 店をたたんじまって
わりをくうのは いつも 同じ
仕入れの仕組みが 違うんだよ
半分もってかれっちまうからな
もう このごろは 部屋にいたって 世界中のもんが 手にはいる
俺たちもさあ 乗り遅れちゃいけねえって
寄り合いたちあげてな どうにかしようって
流れは もう 随分と前から ここまで 来ていたわけで
電話線に繋がって 日本も狭くなったわけだ
潮のかをりは 雨にまじって じっとりと肌の産毛を濡らす
あの日すれ違っていた 箱詰めの魚とコンクリートのかけら
注文の品は 間違って配送されたのだろう
眠らされた少女も 知らぬ海の底 魚市場の声を聞く
片田舎の港町
こりもせぬ電波は その後も続いていたと
そして同じ頃
見も知らぬ彼が キーボードを叩く
お手元に届く 訪れたことのない港の加工品
商品番号 017
波音も届かない 窓の中で 海が飽和する