餅ヴォイ
餅ヴィシャス

伊勢の名物、赤福本店にて
赤福セットを注文する宿命の俺達
お店の人が持ってきた瞬間
俺は土下座をしたよ

赤福に。餅菓子に。

小皿に盛られた赤福餅3片に対し
土下座する俺のフォルムは
まさに赤福!

俺はすべてを理解した。
赤福のすべてじゃなく
「すべて」を だ

不思議そうな顔をする君に
おれは餅のようになめらかに説明をはじめる。

伝統が紡いだゆるぎなきスタイル、
存在感、コンセプト、名前の由来、
プロ意識、後味のよいお味、
つまり、赤福が、この世界に、
「立って」いるという存在感において
伊勢神宮の神木と何ら見劣りしない点

赤福のような餅菓子にすら
このように感じられる俺の素晴らしさ
を もちもちと話したが、
この場合、素晴らしいのは、

赤福様でも
俺様でもなく

笑って聞いてくれていた
君だったって事に気づいた
文京区湯島13時39分45秒!

その瞬間
走った!走った!走ったった!
過去に向かって走った

無理か?
だが奇跡って言葉があるだろう

俺は謝りたい。
すべてを謝罪したい。
ありがとうといいたい
ほっぺにちゅうっとキスがしたい
君の髪の毛でサーフィンがしたい

よりを戻したいんじゃねぇ
もういちど俺がこの世界で立つために
I WANNA LIIIIIIIIISE!

今の俺は善だ、プラスだ、正義だろう。
この瞬間に奇跡が起こせなければ
奇跡という言葉はうんこ以下
あるいは使用禁止やろ
聞いてんのか空

タイミングは必然ジャスト
あと俺に必要なのは
ごっつい加速と赤いベストだけ
この二つがマスト
映画で観た
あいにく赤いベストは着ちゃいねぇし
そんなダサいもん持ってないけども

俺のソウルは
夕陽をバックに赤い風に吹かれている
ジェロニモの赤!

俺のソウルはジェロニモの赤!
俺のソウルはジェロニモの血!

俺のソウルは
赤いブラッディなシチューのイメージで
くつくつ煮え滾らせて魂の濃度を上げていく
砂まじりの!
ざらつく!
赤!

この赤いシチューを
普段は
「ん、んっ、大変おいしゅうございます」
とか言ってるあの上品なおばはんに
食べさせた場合、
あの上品な
あの上品な、ばあちゃんでさえ
こう叫びたくなるんちゃう
I WANNA LIIIIIIIIIIIIISE!

届きたい
華麗にダイビングキャッチする新庄ではなく
無様に届かねぇボールに
喰らいつく高校球児のイメージで
深海の圧力を全身で感じながら
新記録のチケットを取りにいく
ダイバーのイメージで
君のいた時代まで
加速 加速 加速!
あとはあの定食屋の前に用意された
バナナの皮でつるんとスリップして
トリップするだけ。のはずであったけれど

ストップ

・・鳩が邪魔。

決意表明から挫折まで
           7秒62

   「奇跡的新記録」

このとき
あきれ返った世界中のCEO達は
コーヒーカップを倒し
白い高級なテーブルクロスの上には
上質な琥珀色の鳩のマークが
一斉に浮かび上がった
世界中に

日本時間でいうところの13時39分53秒。
まさに奇跡だった

そのあと俺は邪魔したハトの野郎の
不意をついて「キッ」と睨んでやったけど
ハトの野郎
なかなかのポーカーフェイスだったぜ。
気づいてたくせに。


自由詩 餅ヴォイ Copyright 餅ヴィシャス 2004-11-10 13:20:36
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