ノット・アズ・センチメンタル・アズ・イット・ユゥズ・トゥービーなジャーニー
コーリャ


呪文をとなえるみたいに
あめだまをころがしながら
光の中を進めば進むほど
あんまり寒いので
動物園なんかはすっかり氷付けにされてる
入園できそうもないので
そのまま帰った

幽霊がしぬほどいる街についたら
ペンキをたくさん買おうとおもう
とうめいなかれらをひとりのこらず
生者とおなじにしてやるためだ

次の街では人々が
みんな樹木になっている
それぞれのポーズで生えながら
ざわざわと人語を発しているようにきこえる
どいつもこいつも
あんまり生きることに絶望してしまったので
せめていままで吸った酸素を
地球にかえしてあげるのですと
風に脱字した言葉をきいた
とりあえずこいつらも全部塗っておいた

次の街にはガイコツがたくさんいた
昼間には弔花みたいにねむっているが
夜になるとキャシャキャシャと広場にでてきて
噴水で水あびしたあとに
内臓が全部溶けるという呪いの歌にのせて
輪舞していた
とびちる飛沫が
月光をびかりびかりとするどく反射させて
プリズムでできたスプリンクラーみたいだった
またはちいさな宇宙図みたいにみえた
このひとたちは無視した

次の街へは電車でいこうとおもったから
ぐいぐい流れる景色をみつめながら
この景色たちはどこに捨てられていくんだろうかと考えた
景色のゴミ捨て場があるなら
きっと景色を収集する人もいて
リサイクルして
また新しい世界をつくりましょう
なんてやっているのかなとおもった

電車は街につく代わりに車庫に回送していった
電灯がいっきに消えて
そこは海みたいな闇のなかだった
あんまり暑すぎたので
とりあえず季節のせいにしてみた
季節をペンキで塗れればいいのにとかもかんがえた
ささくれだったライトブルーの季節

朝起きると
2009年の6月と女が手すりにぶらさがって
ぼくをじっとみている
なんだか気味が悪いので
さようなら、とか
あなたたちはやさしいね、とか
すわったら?とか
憎い!とか試みに言ってみたけれど
瞬きもせずにみつめるばかり
困った

電車はいつのまにか動きだしていた
2009年の6月と女はもういなかった
そのかわり氷付けの猿と
肌色の幽霊と
木とガイコツと景色の収集人が乗り合わせていて
ぼくはこの道連れと
どんな終点までいくんだろうかとおもっていたが
ひとりづつ下車し
さいごにのこったのは
最初にいなかったはずの女だった
すごく困った

ぼくはもう喋らなかった
太陽と月のそういう実験みたいに
ただ寝たり起きたりをくりかえした
ときどきは彼女のために歌をうたってみた
うまくうたえたり
まったくうたえなかったりした
それでもよかった
車窓から吹きこむ風のなかで
ぼくらは生きていた
それなりにメロディアスに
おたがいそっぽをむきながら

すごく上手に歌をうたえたことがあった
もうこれ以上なかった
どうだ?と彼女のほうをふりかえると
もういなかった
はは、
バイバイ


自由詩 ノット・アズ・センチメンタル・アズ・イット・ユゥズ・トゥービーなジャーニー Copyright コーリャ 2011-05-20 00:25:05
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