俺の幽霊
……とある蛙

初夏の明るい光の中
陽光に照らされた新緑の並木
聖橋から下る通りに
暗さは無い。

明るく振る舞う表情の裏
怠惰と絶望が無い交ぜになった
深く刻まれた皺を持つ老人の横顔
溌剌とした声の裏側に
嗄れた呪文にも似た後悔の独白

美しい夕暮れの聖橋にかかる
犬の遠吠え
中央線と総武線の交錯した
車両の騒音

秋葉原の深閑とした夜の悲鳴
ビルの谷間の闇に
立て付けの悪い夜の扉に凭れる
過去の俺の恋愛画像

俺は天国の夢を見る
それは暗い法廷の待合室だ
風が吹いている
密室に吹き込む冷たい山背
それは過ぎさった辛い嵐の名残

通風孔から吹き込む風に
鼠が震えている
やり直したいのだが
この路に、俺は迷い込む

夜郎自大な いかれた詩人たちが
洋館の出窓から俺をじっと見ている
奴の舌先は分岐し
額には山羊の角

恐怖の猖獗
恐怖で押し殺されそうになる
奴は俺を殺そうとするのか
もしくは俺の背後霊か?
私は何も知らない分からない!

窓ガラスに罅が入って入る
そこに隠れた背後霊が
聖橋の水面に映った陰に落とされ
目の前に反射した光となって
街路樹の枝の愛だから擦り抜ける


夜の列車が通り抜ける
その列車に乗り込んで
もう一つの東京へ行こうと
夜の茶の水を彷徨する

俺は告白する
たくさんの季節をここで過ごし
たくさんの夜をここで飲んだくれ
それ以前からここで生きてきたのだ
つまり、ここで始まり
ニコライ堂のある坂道を愛し
ここで恋をし、ここで仕事をしてきた。
だが何も成し遂げていないまま
惚けてしまう
そうだ、俺はもともと生き腐れなのだから



自由詩 俺の幽霊 Copyright ……とある蛙 2011-05-19 09:55:27
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