木から生まれた娘
朧月
何のために生まれてきたかなんて
突然わかったり
わからなくなったりするのだろうね
そう木がいいました
木は私が生まれる前からそこにあったので
私が生まれた時から泣いているのが
おもしろくてたまらないそうです
両手を伸ばした位置から
二股にわかれたその木の上に
私はよく座っていました
夕暮れも
たいようが真上にくるのも
そこからみるとたいして
変わりがない色にみえるのでした
どの家にもあかりがあり
呼吸をしている
そうおもうと不思議で
庭先で涼んでいる老婆は
生きているのかしらんと思い
ふうっと息をふきかけて
確かめたくなるのでした
抱きついたつるつるの幹からは
温度は感じられず
それはまた私のほうだったのかもしれません
私はたぶん木から生まれたのでしょう
木に戻ってゆくのでしょう