この世に
シャドウ ウィックフェロー
君が生まれて病院に駆けつけたとき
ベッドに座っていた君の母さんの姿を忘れない
全体に色のない部屋の中で白いネグリジェを着た彼女は
少し放心しているように見えた
表情はとても柔らかく
ぼうっとした淡い光が
その顔や体全体を包んでいた
それは何かをやり遂げたひとが全ての力を出し尽くして
心地よい疲労の余韻に浸っているような
少し大げさに言えば神々しいみたいな
オーラに満ちていた
そのあとに初めて見た君は小さくしわくちゃで
ほんと風にあてるのも憚られるひ弱な赤ちゃんだった
そのとき君への愛情がわいたかと問われれば
正直なところそんなには
わかなかった気がする
それからの何百日か
君の成長を見つめ続けた日々
泣いている
笑っている
訴えている
怒っている
怖がっている
微睡んでいる
喜んでいる
探している
見つめている
考えている
楽しんでいる
君を見つめて
その一瞬
一日の積み重ねが
君への愛しさを
育んでいった
やがて君は憎まれ口をきく小生意気な娘に成長したけれど
あんなにも無邪気に
一心に生きていく姿が
言い表せないほどの喜びを与えてくれた
それは今も父さんの
母さんの胸のうちにある
いつまでも色褪せない
記憶の宝物として
ともに生きた
かけがえのない時間の
証しとして
そしてもちろん大人になった君のことも
その少し変わった趣味や考え方さえ
いま君がどんな風に思っているにしろ
やはり愛しく思っていることを
どうか君に伝えたい