闇の向こう
ホロウ・シカエルボク





死んだプラネタリウムのそばの
かろうじて灯る街灯の下で
指と指をからませあった
身を切るような12月だった


旅自宅の途中で
こっそりと抜け出してきた
きみは
早く帰らなければいけないと
そればかりを気にして
たぶんこれきりなのに
ひとつも
上手く話せず


夜間飛行の赤いライト
見上げているうちに
なにもかもが終わった
なにもかもが


「縁があったらまたどこかで」と
涙をためながらきみは笑うけど
スーツ・ケースに衣類を詰めるみたいには
思いは
整頓出来ないんだ


ひとりになった街角で
ぼくはふるえ
温まらない身体を抱いて
だけど
少なくとも温まれる
小さな部屋へ帰る気もなく


振りむきざまにきみの残像が
巻き戻されてここに来ればいい
歩みを止めることだけで
繋ぎとめたいと願う夜には
振りむきざまに君の残像が
巻き戻されてここに来ればいい


カティサークの空瓶に乗って
通りの向こうの闇を覗いた
どんなに見つめても何も見えないから
ほんとは闇は素敵な
コンテンツなのかもしれないよ


雪でも降ればこのままここで樹氷にもなれるけど
死に至る凍えは甘えだと言わんばかりに
12月はぼくを
ギリギリの温度で突き放す
さあ、早くお帰りと
早く帰って紅茶でもお飲みよと
あのひとはもう居なくなるんだよ
きみの前どころか、もうこの街から
きれいさっぱり居なくなってしまうんだよと


ぼくは闇の向こうを眺めた
あんなに夢見た君は
昨日の中にとけこんで
もう
なにも見えない


もう
なにも見えない





自由詩 闇の向こう Copyright ホロウ・シカエルボク 2011-05-17 00:05:04
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