地勢が、波の舌、波の騎馬で…
石川敬大




 あんなところまで
 かけあがってゆく脚力があった
 なんて、知らなかった
 あれが
 かけのぼってゆく波のペニスだったなんて

 美しい波形
 コバルトブルー
 夏の日に
 波とたわむれていた
 子どものKがいた
 Kの両親と姉たちがいた

 うらがえりうらがえす波うらぎりの
 まきあげる
 波の舌
 押し殺したうなり声をあげることもなく
 しずかにちゃくじつに騎馬の歩をすすめてゆき
 すえつけるほどのパワーがあった
 波
 地勢も波にさらわれて
 地勢も風雨にえぐられて
 ほろほろくずれてしまう
 ほろほろこわれてしまったんだよ


  これはにちじょうがながれだして
  ちらばってしまったのです
  まだみつけられない、しゃしんのきおくをさがすのです


 映画俳優が眼前のガレキを前に
 的確に言葉でデッサンするのを
 おどろいた
 ぼくらは
 目を曇らせて
 なにもみてはいなかったのかもしれないと

 どうかふたつに割ってください
 割ってわってびさいな粉末になったなら電波にのって世界じゅうの
 たくさんのひとがうけとりにきますから
 言葉にならないかなしみをてばなしたなら
 偏西風の
 雲にのって

 せめて帰らない
 ひとの名前を、おもいをこめて
 そっと
 そっとよんであげましょう






自由詩 地勢が、波の舌、波の騎馬で… Copyright 石川敬大 2011-05-14 11:54:37
notebook Home