湿度計
杠いうれ

未明に。

未明に原発が白に包まれた。
霧なのか水蒸気なのか分からないけれど、幻想的で危うい光景だった。

夜はいつも湿度が高い。
太陽が奪わないぶん、ひたひたしている。
昼と同じに水分を放っていても、夜には飽和状態になって、目に見えるようになる。
霧だったのか、水蒸気だったのか。

夜はいつも湿度が高い。
雨の日の唄に悲しげなものが多いのも、きっと同じ仕組みだろう。
体もその中身も素材は変わらない筈なのに、夜はやはり、ひたひたするものだから。

ひたひたする。

ひたひたする体を抱えて、悲しいことを思う。
悲しいをぞんざいに扱う為に、体をぞんざいに的確に扱われることを思う。そしてそれは満遍なく物悲しい。
それぞれが結露してゆく様を、手出しすることを許されない君はどんな顔で眺めるのだろう。
切実そうなら切実そうなほど、息を飲み干したのちの急速な眠気は深さを増す。


それとは別に、昼の簡易な傾眠発作に委せてうっかりゆめを見る。
きょうは水道水中の放射線量が高いから歯磨きはやめなさい、と母親に呼び止められる。
歯ブラシを戻して、何故か寝室の真ん中にあるバスタブに浸かると、当然のように父親が入ってきてまじまじと観察するので、見せつけながらもひとしきり罵倒する。
バスタブのせいで、寝室はひたひたしている。
しぶしぶ出ていった父親の足跡が、絨毯に濃く滲みて乾く気がしない。
持ち込んだ然して美味しくもない紅茶を見て、これも飲めないじゃん、と気付く。
ゆめのなかのわたしも、未明の危うく白いもやを思っていた。





自由詩 湿度計 Copyright 杠いうれ 2011-05-12 14:39:13
notebook Home