ハチャトゥリアン 交響曲第一番第三楽章
葉leaf

真夏の赤い闇に閉ざされた狭くて重い部屋の中にどこまでも続く一本の道がある、砂利/土/アスファルト/石畳、それらの悲壮な交替、反復、沈殿により、きらめく闇の粉からささやかれた32mの格子窓に映る病人の内臓、誰もこの道を踏んだ/逃げた/考えたこともない、という浸食から妨げられた5個の剝製の蓄積した感度からの洗濯、どの球面がどの辞書がどの宗教が落とした道なのかその疑問すらも道を通ることができない、生えてくる/廃れてくる/そそってくる、植物/鉱物/アゲハ蝶は「いつ」という問いさえもいつなされたのか、その答えを知っているという悪意と表現の右端の湾曲部にわずかに触れながら、さらに硬直した五月雨の一番下の引出しから、うなり、うなり(うなり)、その先へ向かう圧力(精度、圧力(鏡像)、精度)鏡像、一人の男が現れ/立ち現れ/滲み/ひずみ/、男は革のコートを羽織っている、ズボンにはペンキの汚れがあり、額には深いしわがある、その男の回転するひげに合わせるようにして春の2時間は男の腕を裂き、また男の両耳をつなぎ、それでも男はもとのままだ、男は煙草を取り出し火をつけ吸う、昔の女を思い出している、男は英雄/落伍者?/社会人!/夜と朝の間をつなぐ人!?!(しがみつく(ときはなつ)歌により死んだ人)/ふと思い出したようにポケットから小銭を取り出し眺めている、道と男との悲劇は渇き切った都市のように始まった/逆立った/悲観した、男が道の一歩手前で部屋の東側に移ろっていくと、男から放射された新しい道が、砂利/土/アスファルト/石畳によって殺戮されて部屋の外側にさらなる死んだ道が消えてゆく、波だ、周波数だ、振幅だ、巻き数だ、道は部屋の中で太陽に満たされてそのあと月に引き抜かれる、男は眠らずに手を掲げている、男の視点の数だけ道は曲がりくねり、道の到達点の数だけ男は指を動かしていく、部屋を作っているのはコンクリート/木材(犬の散歩の罪から)/石材(コンクリート、木材)/、部屋は大きな駅から2km離れた場所にあり、駅では昔の時間/変装が今でも人を集め/降ろし、轟音とひび割れと火花を埋葬しながら山から山へと失われた電信を突き通している、男は華やかな苦悩に襲われ額に手を当て笑みをこぼし歯を噛む、男はついに道を歩いた/走った(歩いた、這った)/迷った/迷った(走った)、部屋は立方体の記憶を残したまま球体へと発芽し、道はただ部屋の窓に映るだけの虚構という実体/存在に変わる、男が気づいて見ると部屋の中には花瓶があり、一輪の手の花が咲いていた。


自由詩 ハチャトゥリアン 交響曲第一番第三楽章 Copyright 葉leaf 2011-05-12 07:09:20
notebook Home 戻る