レプリカ
理来

いま何かを思い出しかけたというのに
音も無くそれは絶えた
上手にしまっておいたものたちを
風に差し出そうとしたのだが
名前を持たない爪先は
一度去ってしまったら戻らない
差し招く常夜灯の道先を蹴ったまま

飽くことは理に適っている
その通りだと記憶している
眠りはいつも唐突にやって来て
しばしの造花を置いていく
無形に広がる星の群をさらに下っていく頃
発芽する水晶は
つながれた深奥で
望むべきものを錯誤している

もぎとられた手足
そそがれた熱量も水の冷ややかさも
口に透き通るだけの
産声の予感さえもたらしはしない
かりそめしか生まれ得ぬなら
その明滅を閉じ込めておいてよ、まだ
ただ一つの、薄明の微笑の下に手向けられた


自由詩 レプリカ Copyright 理来 2011-05-10 17:07:43
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