ぐい呑み
……とある蛙

目の前にある一杯のぐい呑みに溢れた
桜政宗の燗酒をぐいと飲み干す

その傍らには酒の肴の赤身のマグロと
今日一日の痼(しこ)り
プルンと小鉢に鎮座して、
それを箸先で舐め
全てを忘れる切っ掛けにしようと
酒と一緒に胃袋に放り込む。

こんな事で一日の全ての痼(しこ)りが
忘れられるのなら
俺は握りしめた全ての有り金を
ポケットにある全ての有り金を
テーブルに放り出し呑むだろう。

呑んで酔った振りをしてみても
隣の親父と違う痼(しこ)りなので
話は噛み合わずに宙を舞う。
話は自分と無関係に
親父と無関係に宙を舞う。

それでも一日の痼(しこ)りが
忘れられるのなら
そんな親父との無駄話
結論が出なくたって
二人わかり合えなくたって
延々と続けて酒を呑むだろう。

呑んで歌の一つでも
歌ったところで痼(しこ)りはそのまま
歌は居酒屋の天井に張り付き
沢山の話し声にかき消され
拡散し、騒音となる。

それでも一日の痼(しこ)りが
忘れられるのなら
好きになれない艶歌でも
好きになれないAKBでも
声を涸らして歌ってやるが
っと 歌いながらも呑むだろう。

飲み続けながら飲み続けながら
毎日が更けて行く。
こうして毎日が更けて行く
相変わらず一日の痼(しこ)りを舐めながら


自由詩 ぐい呑み Copyright ……とある蛙 2011-05-10 15:34:07
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