かおるひと
恋月 ぴの
最近入店した笑顔の素敵な男のひと
洗い方は丁寧なんだけど
細長い指先からほのかにただようタバコのにおい
最初は気のせいかと思ったんだけど
どうやらそうでもないようで
せっかくのシャンプーリンスが台無しになってしまった
休憩時間にでも吸っていたのかな
わたしも吸ってれば気にならないのだろうけど
*
はじめて身体を許したひと
わたしに背を向け指先のにおい嗅いだような
生理近かったんだけどね
嫌われたらどうしようかと断りきれなくて
甘い口づけを交わし
身体を重ねあって
溢れ出る感情を確かめ合ったのは事実なんだけど
男のひとって誰でもにおい嗅ぐのかな
なんかトラウマになっちゃうよ
*
不思議と汚くないんだよね
久しぶりに会った古くからの友だち
赤ちゃんをあやしながら笑顔で答えてくれた
うっかりすると紙おむつの脇からあふれ出てたりしてさ
パパと大騒ぎしちゃうんだけどね
まなざしは見飽きることの無い愛娘の表情に釘付けで
結婚なんかしないし、子供だって生まないんだ
あの日あの夜に女ふたりで誓い合ったはずなのに
すっかり母親らしくなっていて
愛おしげな指先からは甘いミルクの香りがした