非ガリバァー旅行記
石川敬大



 だれとも一言もしゃべらない
 この日の
 この状況を客観的に
 死と捉えるのであれば
 きょう一日は
 死んでいたのも同然だったかもしれない

 めざめたら小人の国というのは映画か小説のファンタジー
 ナレーションもなければBGМもながれない
 のが、夢とか現実で
 発熱した身体をもてあます日々が
 ベッドの上で淡々とつづく


 ゆられていた から ゆれていた


 時計盤上で脈打つ秒針
 この速度が
 乗った列車のスピードとリズム感
 車窓のスクリーンに
 街並みはたやすくタイムスリップするだろう

 ながいカゲをひいた犬が坂道をユタユタおりてくる
 漁村では
 港からひろがる
 だれかが潜むようにしずかな海が
 はるかな水平線までインクの藍をおびてひろがっていた


 やがてめまいとともに
 到着駅のホームに転がるサイコロ


 みしらぬ街には
 みしらぬひとしか住んでいなくて
 ガリバァーなんかであるはずがない
 ぼくは
 ここではみしらぬ旅人
 亡霊みたいに足が消えているかもしれないのだ






自由詩 非ガリバァー旅行記 Copyright 石川敬大 2011-05-07 18:04:51
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