はいよー!シルバー!
板谷みきょう
はいよー!シルバー!
ローン・レンジャー!
いつも兄のおさがりの
少し大きな上着を着せられていた
洟を拭ってペカペカした袖の先に
確かに有ったアレは、何だったのだろう
家の手伝いの玄関掃除や茶碗洗いを
一緒にして
時々、貰えたこずかいを貯めた
近所の駄菓子屋で
50円の銀玉鉄砲を買った兄は
一箱5円で50発入った銀玉を撃つ
ボクはその玉を拾い集めては
兄に手渡しに行った
その褒美に銀玉鉄砲を
時々撃たせて貰っていたんだもの
兄は何を撃っていたのだろう
癌の治療は疲れるのよ。
食道が7mmで水も通らなくて
今は直接、胃にアレを入れてるけどな。
そう言って箱積みのラコールという
配合経腸用液を力なく指差した
もう先がないんだから
したいことをしようと思ったけれども
なんせ、体力が無いもんだから
何かしようとしても
皆に迷惑を掛けるばかりだろ?
そんなら部屋に居て
何もしないことが一番だと思ってよ。
飲み込め無い唾をちり紙で
拭い取り
屑籠に入れながらそんなことを言う。
これはまだお前には早いけど
良く見とけよー!
マット箱に擦ってから放り投げた2B弾
炸裂音が近所にこだまする様に
鳴り響いていた
失望が拡がる狭い部屋で呟く様に
小さな声しか出せないのか
すっかり痩せこけて
ダボダボになったシャツが痛々しい
たった半年で幽鬼のような姿に
なってしまっているじゃないか
割烹着にパーマをあててた母さんは
真っ白な髪を短くして
階下で膝を擦りながら待っている
んっ?!
それじゃあ。又来るわ。
いつも大声で笑い、泣き
喧嘩もしてたのに
帰り道、何も言うこともできないで
母を送った後に
独りで車の中でボクは
当ても無い願いを込めて
はいよー!シルバー!
ローン・レンジャー!って
何度も叫んで泣くしかなかった