レストルーム
山中 烏流
それは腕でした
ベッドは空を飛ぶいきものになったので
わたしのライフカードからは
にんげんが外れました
それは腕でした
ブランケットの内でまどろむわたしを抱き
耳を塞いで
窓を越えました
彼はいきものです
わたしもいきものなので
来年の今頃には
いきものが生まれます
這い出してくる腕や脚に唇を咬んでも
空が白み行くことに変わりはないので
これから、の話をすることは
既に
意味がありません
それは腕でした
やがて、たどり着いた水面で
わたしの唇を濡らしながら
緩やかに掻き出しました
それは腕でした
戻すものも無くした背を撫でながら
合わさる呼吸の果てに
瞼に糸を渡しました
眠るわたしの傍らに
空が、近づいてきます