一日
理来
今日は落日は見なかったな
見なかったな。小雨に覆われて
道行くケンタロウも見なかったな
ケンタロウの紐に引っ張られていくおじいさんも
やっぱり見なかったな
観察という行為が
とても少なくなった、以前と比べて
標識や電柱はただそこに貼り付けられているだけの
切り取り絵である
帰り路を急ぐ足だけが
妙に鍛えられている
時間の意味やその価値を天秤にかけることが
多くなった
これは大事
あっちはいらん
そっちは取っとけ
こっちはどうでもいい
すると、いつの間にか夜が次のページを繰っており
わたしは食卓についているのである
わたしという存在は
消去と発生の
その一瞬の合間にだけ
立ち現れることができるということ
これまで何をやっていたのやら
すっかり忘れていた、法則
わたしの進み方、戻り方は
いつだっていささか苦笑めいていた
この曖昧な水の分子、水の分子の数奇な集まり
それらがぴかぴか電気をおくって
ようやく点灯に成功しているということ
外に出てみると
近所のガキんちょ猫がまた小賢しそうにこちらを窺っており
あんたもまあどうしようもなく不死身でせわしないな
そう声をかけると
猫はぴゅーっと行ってしまった
小雨はどこへ立ち退いたのか、空は晴れ間だった
熔けた橙が少しずつ途切れそうになっており
こういった日は、なぜだか猫ではない
全く見当違いの方角から、カラスがぐえっと返事するのだ