扉の向こう側 (未詩・独白)
プル式
貰ったキーホルダーを見る度に
僕の心は体を離れる
ずっと遠いあの街まで
丘の上には大きな桜の木があって
公民館と図書館と体育館と
少し行くとスーパーがあった
公民館には児童館がついていて
いつも賑やかな声とボールの音
けらけらとした笑い声が溢れていた
近くの畑は季節毎に花が咲き
順番に膨らみ始める実の色を横目に
休みの日には河原を散歩した
雪の日にお勝手の窓を開けると
真っ白な畑としんとした空気
たまにバサリと雪が落ちた
年越しの日には篝火が焚かれて
獅子舞と火男傍目と振る舞い酒
大きな太鼓を打ち鳴らしてお詣りをした
僕と奥さんが結婚をした緑のテラスと
子供の生まれた駅前通りの病院
あそこが僕らの始まりの場所だった
この街には海もジャスコもあるけれど
畑や桜並木、あの街に有った物は無い
友達と文句を言ったあの丘の坂も
行きき出来るさなんて言いながら
仕事に追われて空ばかり眺める
下を向くと挫けそうになるから
左のポケットには家の鍵
握りしめた手の中で
キーホルダーに書かれたあの街が
僕の心をカチャカチャと開ける。