語らい
電灯虫
言われた方はよく憶えているように
一方的に別れさせられた彼の方がよく憶えているだろう。
きっかけは何だった?
彼に問われるのが怖くて。
関節は滑らかに動いていて、立派になった彼の振る舞いが年月を感じた。
大きくなったな、そう声をかけられ
どうも、と無愛想に答え、
大人をアピールしている自分の成長度合いに恥ずかしくなった。
白髪混じりの自分の風体にどっかで引け目を感じる。
年齢に即して見合った振る舞いを、誰ともなく、いつの間にか要求され
見えない境界線から半歩でも足を出さないために
成長と名をつけて答えなきゃならなかった。
個性を重視するという売り込みの割には、どこで決められたか同質性の水準は明確で
興味がないと標榜するのは、たどると繋がる自己否定の存在を感じさせて
忘却だけ上手くなる、その過程だけをはっきりとみていた。
それは今さら逆行するのとも違っていて
境界線の内と外の意味が無くなったから。
どうだい、楽しいときはあるか?
そう問われて
うん。
と、素直に答えられた。
うん。
二度目は接着の跡に答えて。
その気持ちを、感情なんて上等なものにしないように。