沈
村上 和
私がまだ小学生の頃
同じクラスに「わたしのパパはパイロットなのよ」と言っていた子がいた
後日違う子から「あの子の家は古いアパートなんだから絶対に嘘よ」と聞いた
私はその子に嫌いだと言った
その日の空は
ただ静かに晴れていて
学校のある街には
ただ日常が流れていた
沈んでいくように
ぶくぶくぶく
水面のような空を見上げる
今日また嘘をついた
大人になった私は
見栄を張って
見栄を張ってはその度に
ゆっくりと沈んでいく
君は
哀しそうに笑っていた
私もきっと
悲しそうに笑っていた
10年ぶりの場所
懐かしい帰り道を歩いたから
空がただ静かに晴れていたから
街がまだ日常を流していたから
水中から見上げた水面みたいに
空の景色は滲んで揺れて
まるで泣いているようだった
ぶくぶくぶく
あの日の空をあの子のパパの操縦する飛行機が
音もなく飛んでいた