葉桜
nonya
軽やかに街を吹き抜ける風が
まことしやかな君の噂を
僕の耳元で囁いていく
騙し絵もどきの日常の水路を
予定通り流されながらも
まだ僕はなくした鍵を探している
散り終えた季節に
鍵をかけてしまわなければ
たぶん僕は歩み出せない
降り積もった花弁の残像を
踏みにじることもできず
ただ立ち尽くす僕の薄っぺらな影を
おそらく君は本の頁を繰るように
過去へと読み飛ばすのだろう
何の惜しげもなく
ひとつの季節を脱ぎ捨てた君は
色めく光に髪をさざめかせながら
いつものように涼やかな眼差しで
未だ淡い緑を仰ぐのだろう
その梢が
桜であることも
忘れて