いのちの灯
服部 剛
葬儀場では僧侶がお経を唱え
遺された息子と母親はじっと
額縁から微笑むひとに
何かを、語りかけていた
お焼香の短い列に
思いの他早く僕は腰を上げ
額縁から微笑むひとに
両手をあわせる
(息子さんはずっと友達です)
と瞳を閉じた時
吸い上げられて光の国へ入った魂と
何年も前に駆けて逝った娘との再会が
脳裏に浮かんだ
祈りを終えて、振り返り
息子と母親に、礼をする。
母親の丸い瞳は
何も言わずに(ありがとう)と、僕に言う
僧侶が唱えていた
親鸞上人の言葉
「 世の人の全てを招き
世の人の業を溶かし
光の国から差しのべる
まことの親の両腕は
その魂を、抱き給う 」
*
僕は今、日暮れ前の電車に乗っている。
先ほどふらついた街でネットカフェに入り
君のページで「父親の詩」という文を
プリントした紙の裏側に
このささやかな追悼詩を綴っている。
紙を裏返せば、君の父親が
在りし日に
希った、詩の世界
とっぷり日の暮れた
夜の海の堤防にともる
いのちの灯よ・・・
棺に横たわり
瞳を閉じて微笑むひとの周囲に
皆で色とりどりの花を一杯に敷き詰めた
告別の日
僕等は詩友として、一つの約束を交した。
「人の胸を震わせる詩を・・・書こう」
在りし日の人の語りかける
抒情詩の海から僕等はもらうだろう
まっさらに差しのべる両手を
燭台の器にしてともる
永遠の灯を
※この詩を友の亡き父親の魂に、捧げます。