チューリップ十本の赤い花びらのなかを
あらら
柔らかい日に晒され
赤いチューリップが一本
咲いているのを見たら
その花びらのなかに
人差し指をそっと
入れてみてください
ひんやりとして
少し怖くはありませんか
花びらの形にかたどられ
赤く染まった空気のなかは
ひどく特別に見えはしませんか
植えた覚えもない
一本の赤いチューリップが
ある日庭先に咲いていた
だから私は
その花びらのなかまで
まるごとすべてのチューリップを
あなたにあげたくて仕方がなくて
こうして根元を切り取ってみるのだが
赤く染まった花びらのなかの
その特別なものは
グラスに残ったままの
シャンパンのように
気が抜けてぬるくなり
色褪せていくようにも思えるので
私は静かに途方に暮れる
だからいまここにある
チューリップ十本の赤い花びらのそのなかは
土の中に根をおろした
チューリップ一本の赤い花びらのそのなかと
ちょうど同じくらいだと
思って貰えれば
私は充分嬉しいのだ
私にできることなんていうのは
せいぜいがそれくらいのことで
だから今日私は
この花束をあなたのために
いまここに持って来たのだと