ナイフ
nonya


少し前から
気づいてはいたけれど
僕のナイフは錆びている

もうリンゴの皮すら剥けないし
エンピツを尖らすこともできない
誰かの心を抉るどころか
靴の踵にこびりついた昨日を
こそげ落とすのが関の山だ

素知らぬ顔で
ポケットに忍ばせているけれど
僕のナイフは錆びている

誰かを傷つけた記憶は
フリルのついた想い出や
武勇伝の中のかすり傷に
いつの間にか置き換えられて
ナイフの錆びに成り果てた

どんなに
汗ばんだ手で弄ぼうが
もはやナイフは
自分自身すら傷つけることができない

そおっと
唇に押し当てたところで
もはやナイフは
錆びついた狂気の味すらしない

ロックには程遠く
ポップスとも言えず
大っ嫌いな演歌の
酸味を帯びた懐かしさ
そんな味しかしなくなったナイフは
もはやナイフではない

それでも
君を傷つけようとして
むりやり当て擦ったら
薄っすら血ぐらい滲むだろうけれど
僕はそれをやらない

優しいんじゃなくて
自分が哀し過ぎるから





自由詩 ナイフ Copyright nonya 2011-04-12 22:52:44
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