納骨の日
ゆるこ
高萩の本家の近くの墓場はいつもナビから外れた場所に存在していた
だからかどうかわからないけれど
父親の一周忌も三回忌も墓参りに行くことはなかった
父親の納骨以来の墓参りは
奇しくも母親の納骨の為だった
「死者はくちなし」
黒蟻が囁く手前、殺風景な墓地に足を踏み入れれば、墓石が立っていない本家の墓にたどり着く
桶二杯分の水を両手に持ち、回りの石を少し洗ってやる
誰も来ていないので雑草だけが無駄に
ぼうぼう と
生えている
その雑草たちに水を掛け、それから少し手入れをする
前に、墓の上にあるものにはなにかしらの人の情が移る場合があることを聞いていたので
丁寧に、抜いてやる
敷き詰められた石がようやく顔を見せた頃、納骨のためにコンクリートで固められた蓋を開けてもらう
大の大人二人掛かりで開けたその穴の中は、いたって普通の、シンプルな作りになっていた
そこに、両手サイズになった母を入れる
ことん。
静かな音をたてながら、小さな倉庫のようになっている場所に母は入った
思えば、母はどんなときでも怒鳴り、叫ぶことはなかった
寡黙という言葉が一番合うだろうか、それは静かな人だった
病気になってからは、枷が外れたように幼く、素直だった母は
父のもとに行って幸せだろうか
「かわいそうになぁ」
いつの間に
私の横に寄り添うように存在していた祖母は言う
硝子のような瞳で囁く
「かわいそうになぁ、かわいそうに」
黒蟻が列を成している
暖かい春の日差しが私を避けている
祖母はいつの間にか消えていた
足の悪い祖母は今頃車で休んでいることだろう
398円で買った花を添える
そこに母の好きな花は一本も無い
形だけの合掌
かわいそうになぁ、
祖母の声だけがそこに漂う
桜のない墓地に、ただ、漂う
これから季節を何度越えても
漂いつづけるのだろう