泥のなか
月乃助

あれはもう 海などではありません
すべてを喪失させる 
漆黒の 巨きな悪魔の使い

瓦礫のやまの影に
行き場をうしない
銀鱗をわずかにみせる潮溜まり

確かにあのとき あたしは泳いでいた
いつものように潮に身をまかせ
薄明かりのなかを 漂うように
でもここでは泥にまみれ
息づくことさえくるしみながら
背びれを陽にさらす

まるで昔話のように
昨日を思い出す
幸せだった
自由だった
安らかだった
もうもどることのないかもしれない
海の日々

何がそれを生んだのですか
罰というにはあまりに 理不尽な
鰓にとりこむ泥水は、
罪の値の対価なのですか

あたしは、この小さな泥の中で息絶える
運命のそのときまで
あきらめずにいるよ

明かりを感じるのは、きっと陽のひかり
でもそれを今は確かめるすべもしらない

あたしの目はもう見ることができない
目をあけることが、
いえ、目がそこにあることさえわからずに、

けれども、あたしがあたしでいる限り
あたしは、あたしの力を信じる
生きている限り
その最後の時まで





自由詩 泥のなか Copyright 月乃助 2011-04-10 14:47:53
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