缶を足で押え込む感覚を覚えている
コテンと倒すとオニは
諦めの表情になる
体育座りしていた捕虜がはじかれたように走り出す
街の神社の境内は八方に出入り口があって
オニは大変だ
お寺の兄ちゃんはいつも
缶を足で押さえ込んで仁王立ちする
横にはいつもいい服を着た妹がついていた
頭を抑えて屋根の上に隠れたおれは
隣の重安ちゃんが植え込み沿い近づいて行くのを見ていた
他のみんなも一斉に近づいて来るのが見えた
屋根から飛び降りるには苔むした地面の上しかない
塀のつっかいを駆け上がって登り
せっかくいい位置に付いたのに返って動けなくなった
お寺の兄ちゃんは妹に何かを話しかけるとふいに
植え込みの後ろを確認しに走った
場面が急展開しみんな一斉に走りだす
お寺の兄ちゃんは向かってくる重安ちゃんの腕をひっかけ
一回大きく振り回した後缶にかけ戻る
大きな声でみんなの名前を呼び上げながら缶へ足を伸ばした
その時おれが宙を飛んだ
誰かが期待して声を上げる
格好よく着地するつもりだったが土を滑ってしりもちを着いた
やっぱりお寺の兄ちゃんは缶を足で抑えて仁王立ちしていた
ちくしょうと重安ちゃんが大声を出す
お寺の兄ちゃんの妹がにっこり笑った
次は重安やぞ
よっしゃーってみんなが散って行った
缶蹴るぞー
黒々とした神社の屋根の影が足元にあった
*隣の重安ちゃん=幼なじみ