缶蹴り
beebee





缶を足で押え込む感覚を覚えている
コテンと倒すとオニは
諦めの表情になる
体育座りしていた捕虜がはじかれたように走り出す
街の神社の境内は八方に出入り口があって
オニは大変だ
お寺の兄ちゃんはいつも
缶を足で押さえ込んで仁王立ちする
横にはいつもいい服を着た妹がついていた
頭を抑えて屋根の上に隠れたおれは
隣の重安ちゃんが植え込み沿い近づいて行くのを見ていた
他のみんなも一斉に近づいて来るのが見えた
屋根から飛び降りるには苔むした地面の上しかない
塀のつっかいを駆け上がって登り
せっかくいい位置に付いたのに返って動けなくなった
お寺の兄ちゃんは妹に何かを話しかけるとふいに
植え込みの後ろを確認しに走った
場面が急展開しみんな一斉に走りだす
お寺の兄ちゃんは向かってくる重安ちゃんの腕をひっかけ
一回大きく振り回した後缶にかけ戻る
大きな声でみんなの名前を呼び上げながら缶へ足を伸ばした
その時おれが宙を飛んだ
誰かが期待して声を上げる
格好よく着地するつもりだったが土を滑ってしりもちを着いた
やっぱりお寺の兄ちゃんは缶を足で抑えて仁王立ちしていた
ちくしょうと重安ちゃんが大声を出す
お寺の兄ちゃんの妹がにっこり笑った
次は重安やぞ
よっしゃーってみんなが散って行った
缶蹴るぞー
黒々とした神社の屋根の影が足元にあった


*隣の重安ちゃん=幼なじみ



自由詩 缶蹴り Copyright beebee 2011-04-10 10:38:05
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