「わたしは一匹の蛾になりたい」
ベンジャミン

へぇ これがきれいな蝶になるなんてねぇ
いいや違うよ これは一見蝶の幼虫みたいだけどねぇ

えっ? ならいったいこれは何になるというんだい?
そりゃぁ 蝶でないなら蛾になるんだよ

蛾って あの三角の羽根をして街灯に集まるやつのこと?
そうそう 鱗粉をまきながら光に寄ってくるやつさ

鱗粉って 毒があって目とかに入ったらいけないんでしょ?
そうらしいねぇ このまま成長したらそういうこともあるかもねぇ

なら そうならないうちにやっつけてしまおうよ
いやいや そんな簡単にやっつけてしまうのも良くないと思うんだ

なんでさ 悪いことをするならやっつけていいじゃないか
いやいや 蛾になるからといって悪さをするとはかぎらないさ

でも 暗がりから突然あらわれたら怖いし気持ち悪いよ
そうかい? でもわたしは一匹の蛾になりたいとさえ思うんだ

どうしてそんなふうに思うの? 蛾はみんな嫌いだって言うよ
みんなが嫌いだと言うのは 蛾と蝶を比べるからなんじゃないかな?

そうかもしれないけど やっぱり蛾になりたいなんておかしいよ
まぁまぁ そう言わずにこの幼虫を見てごらんよ

何度見たって同じだよ 足がいっぱいあって変な生きものだよ
だったら蝶の幼虫だって同じに足がいっぱいあるね

そう言われるとそうだけど 成長した姿はまるで違うじゃないか
そうだね 同じに地べたを這って草を食んで生きているのにね

美しく生まれたいとすべての人が願っても そうならないのと似ているね
そうだね だからこそわたしは一匹の蛾になりたいと思うんだよ

どうしてそんなに 蛾になりたいと思うの?

そうだね たとえ美しく生まれなかったとしても
美しく生きることとは まったく違うことだと思うからだよ
そして 美しくなろうと努力することだってできるし
何よりも まるで無心に光をもとめて飛ぶ姿が
ただそれだけで 美しいと思っているからだよ


自由詩 「わたしは一匹の蛾になりたい」 Copyright ベンジャミン 2011-04-08 04:50:53
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